基礎編#02 カラーシステム

記録・伝達・再現のために考えられた色彩の体系

柿色と聞くと熟した柿が秋晴れの青空に映えている光景が浮かびます。とろけるほど熟したのが好きなどと話題が拡がったりするかもしれません。その様に、色を名前で表現すると、想像力が掻き立てられ、情趣を漂わせたりするという長所がある半面、なじみのない名前ですと、知らない人がいたり、想像するものが異なるということも起こったりします。
日常生活で使われると魅力的な色名ですが、仕事上となると使いにくいため、カラーシステムが必要になってきます。色彩を体系づけて、数値で表現する必要性が高まったのは、20世紀の大量生産型の工業の発達が一因です。人工顔料や染料の技術の進展で同じ色を安定して出せるようなってきたのも体系化を進めました。20世紀は色彩を実用的に使えるようにするための体系が考案された世紀と言えるでしょう。
ご自分の専門分野で取り扱うカラーシステム以外のものも、仕組みについて知識を持っていると役立ちますので整理しておきましょう。

カラーシステム=表色系

表色系とは、記録や伝達・再現の為に色を定量的に表そうとする体系のことで、3つの方向性を持った「空間」として表現されており、混色系と顕色系の2つがあります。 混色系はcolor mixing systemと表現され、色刺激の特性によって表したもので、数値で伝えるのに便利といえましょう。XYZ表色系が代表例です。顕色系はcolor appearance systemと表現され、一般的には色を3つの特徴に従って並べ、尺度化して表します。マンセル表色系やNCSが代表的な例です。

図:光の色を表すXYZ表色系
光の色を表すXYZ表色系
最近は映像やモニターで色を扱う機会が増えているので、RGB数値による表示に慣れている方が多いのではないでしょうか。RGBとは光の三原色のレッド、グリーン、ブルーの頭文字を表し、この三原色による加法混色で色を表現しています。これは、国際照明委員会Commission international de l'éclairage=CIEが1931年に開発したものでXYZ表色系で表現しています。但し、数値と色との関連は分かりにくく、濁った色の認識はしにくいという面を持っています。
図:色彩の品質管理に活用されているL*a*b*色空間
色彩の品質管理に活用されているL*a*b*色空間
さらにCIEの取り組みとしては1976年に発表したL*a*b*色空間があります。人間の視覚を表せるよう、補色空間と言う考え方でできています。縦軸のLは明るさに対応し、aは赤と緑の間の位置、bは黄と青の間の位置と言う補色次元で表します。色の違いを数値で示せるため色の品質管理査の為の色差計に活用されています。

インキの混色で表現できる色を示す CMYKカラーモデル

印刷物ではインキによる光の吸収を利用して色を表現する減法混色を使用しています。CMYKはシアン、マゼンタ、イエローとキー・プレートの頭文字で、CMYは一般的に色の三原色と言われています。一般的にはCMYKの比率で表現できる色を表示したカラーチャートが使われています。

図:加法混色(色光の三原光)と減法混色(色料の三原色)

物体色を示しやすくプロダクト分野などで
活用されるマンセル表色系

色見本を用いた顕色系の代表的なシステムです。アメリカの画家であるマンセルが1905年に発表した「A Color Notation」(色彩の表記)をもとに1943年にアメリカ光学会が視感評価実験をして修正したものをベースとした表色系です。色を「色相」「明度」「彩度」の三属性でとらえ、「色相 明度/彩度」というマンセル記号で表すことによって、伝達や記録を容易にしたシステムです。日本の工業規格に取り入れられており(JIS標準色票1958年~)、視感による測色調査やマーケティング調査にも用いられるなど、幅広い分野で使われています。色相はR、Y、G、B、Pの5つを基本として 、さらにそれぞれの間のYR、GY、BG、PB、RPを加えて10の色相としてします。

図:マンセル表色系の3属性とマンセル表色系の等色相面での明度彩度

配色調和の原理がわかりやすい
オストワルト表色系

心理物理学的考察からの表色系。ドイツのヴィルヘルム・オストワルトが開発したものです。「理想的な白W」「理想的な黒B」「理想的な純色F」の3つの混合比によって色をあらわしています。オストワルト表色系を作成する課題に悩まされた記憶を持つ方もいらっしゃるようですが、白や黒の比率が同じものを組み合わせると調和させやすいと言うように、配色を考える上で参考にしやすいシステムといえましょう。

図:オストワルト表色系

各国で使われている表色系や標準色票

その他に各国の工業規格にとりいれられた表色系がありますので、国ごとの確認が必要とされます。

図:心理的6原色とNCS純色の類似度判断

心理的な感じ方等幅広い視点から生まれたNCS表色系

natural color system 1979年にカラーアトラスとして発表され、1990年スウェーデン工業規格、その後ノルウェイ、スペインの規格にも取り入れられています。へリングの反対色説(人の視覚は赤―緑、黄―青、黒―白の3つの反対色に対応する機能が関与しているという考え方)をもとにスウェーデンの心理学者ヨハンソンを中心に、心理的原色がどのくらい含まれているかを心理的な量(見た目の印象)で表す心理的尺度で表すという考え方でつくられた表色系です。有彩色は心理的原色Y、R、B、Gを4原色とし、その間の色相は類似度で表し、40色相に分類しています。純色量、白色量、黒色量の総和が100になるように表現します。心理という側面から考えられたシステムですから色名との対応もよいとのこともあり、デザインでの使いやすさなどが評価されているようです。

ドイツで使われている工業規格DIN

ドイツで使われている工業規格DIN(Deutshes Institute fur Normung)1955年にドイツの工業規格に取り入れられています。オストワルト表色系を発展させ、均等色空間の実現を目指し色相T、飽和度S、暗度Dの3つの属性で表しています。色相は24に分けられ1から24の数字で表示します。黄色から始まっていますが、ゲーテの色彩論をもとにしているそうです。飽和度は無彩色の0から始まり、7までとし、暗度は理想的な白の0から理想的な黒の10で表します。
その他、ドイツにはRALというドイツ商品安全表示協会が発行する標準色票があります。産業界向けに1927年にBuntton(色相にあたる)Helligkeit (明るさ)Buntheit(彩度)で表す色票を初出、1993年には1688色のカラーシステムを発表しています。

英国で使われているBS

英国工業規格 British Standards英国規格協会で認可した色票で日本でも話題になるのは建築用色彩コーディネーションの為の枠組みBS5252でしょう。
色相(マンセル表色系から選ばれた代表的である色相、ムーン・スペンサーの調和論などをもとになるべく多くの調和が得られる色相)グレイネス(灰色成分の見かけの量、最大をAとし、最もクリアをEとする5段階)、ウエイト(同じグレイネスでも色相によって心理的重さが異なるため等しくなるように調整)の三属性をもとに237色で構成されています。同じウエイト、同じグレイネスならば調和しやすいという調和論を実現しやすいシステムとなっている。

日本で実用的に使われている
NCD-Hue&Tone System

正反射光と拡散反射光

日本カラーデザイン研究所が1967年にデザイントーンシステムとして発表。マンセル表色系をもとに、明度と彩度のバランスでトーン(色の調子)という概念を整理し、色相(Hue)とトーン(Tone)の2次元のマトリックスとしても取り扱えるようにし、色相ごとやトーン毎の集計など、カラーマーケティングに活用しやすいようにしたシステムです。世界最少色数の130色で全体を表示しているカラーチャートとも言えます。

2014年11月26日

Text by 日本カラーデザイン研究所