応用編#02 まちの色

色彩は生活の中で様々に使われています。

まちの色はあまり意識されませんが、これまで徐々に変化してきています。経済状態が変わったり、大切だと考えることの優先順位が変化すると、それとともに変化してきました。

景観色彩の発展段階/景観意識の変化
50年~ 65年~ 80年~ 95年~ 2010年~
発展段階 発生期 成長期 安定期 成熟期 燗熟期
優先項目 機能優先
素材色
目立つ
高彩度
揃える
低彩度化
整える
素材開発
洗練上質化
コーディネート
色彩 混乱 高彩度
多彩度
色調 配色感覚 風土色
重視点 便利・合理性 差別化 調和意識 テーマ性 独自性

株式会社 日本カラーデザイン研究所

一方、まちの色は多面的です。色々な立場や視点から、考えられたり意識されたりしています。そこで、その代表的なものを見てみましょう。

1.地域イメージの色/第三者からの視点

40のパターンの、5色で構成された配色の中から、それぞれの県に相応しいものを選ぶという調査を行いました。まずは東京です。黒や紺、グレーでコントラストを明快に、キチンとしてクールな感じを出している配色が上位です。ビジネスライクで堅い印象でしょうか。次は大阪です。鮮やかな多色が並んだ配色が選ばれました。心斎橋あたりのにぎやかな人通りや会話が浮かびます。建物の色そのものなどより、人々の活動性やまちの雰囲気、空気感などから選ばれているといえそうです。たとえば、これから新幹線開業に向けて注目される福井県はどうでしょうか。繊細なグレーの組み合わせです。福井は越前ガニやそばなどの名産、メガネなどの特産品、越前岬の水仙などから恐竜まで名物や名所も豊かですが、他の地域の人からは日本海に開けた土地で、冬景色が思い浮かぶ北陸の地であることが、優先的にイメージされたということでしょう。よその人はわかってないというよりは、外部からは、そんな風に期待されているんだと考えて、まちをPRする際には、大いに参考にすべきでしょう。

2.地元の目指すイメージの色

杉並区では平成4年に新しい時代にふさわしい魅力あるまちを創造していく姿勢を明らかにするためにコミュニケーションマークを制定したそうです。区の名前の由来ともなった杉並木にも関連して、緑を大切にしてきたこれまでの経緯からも緑系の色を用いているようです。このように色を旗印に用いることによって、地域の皆が大切にしていることや目標が分かりやすくなる利点があります。

3.建物やみちの色

実際に使われている建物や道の色も、まちの雰囲気を確実に変えてくれます。明るい無彩色でまとめられた高層の住宅群は、現代的で颯爽とした感じがします。ためしに、右側の写真のように外壁色をナチュラルのベージュ系に変更してみるとあたたかく、柔らかい印象になるのが分かるでしょうか。戸建が並ぶ住宅街でも、もちろん同様です。和風の銀ねず瓦や白壁のまちと、アースカラーのまちなみでは雰囲気や情緒が変わってきます。どのような色を使うかによって、まちの表情は一変してしまいます。似合う庭木の種類や、花の種類も違ってきます。色彩の計画は、出来上がった空間のイメージを考慮しながら進めていきたいものです。

建物ばかりでなく、歩道の色も同様です。普段あまり気になりませんが、実は道路の色や歩道の色は大きな面積を占めています。アスファルトのグレーのいろと、土を固めたようなアースカラーの色ではどちらを歩いてみたいと思いますか。自分たちの住むまちでは、どのような色が使われているでしょうか。なかなか気づかない部分ですが、意外に散歩する意欲などに影響を与えています。気持ちよく歩ける道、明るい気持ちで歩ける道が、身近にあると毎日が過ごしやすいのではないでしょうか。

4.道路周りの色

遠くに山が霞んで見えている、山形の駅から真っすぐに伸びる道路です。ここの自動車用の大型照明灯のポールの色は、遠くの山並みの眺望を妨げないように、また歩行者の目線からは空が背景になりやすいため、空になじむような明るさの色にしようと、行政や専門家、まちの人が一緒に考えたのだそうです。具体的な色彩を検討する際には欠かせない、周辺への配慮、見え方の多面的検討の成果といえましょう。
道路の周辺には、例えばこの照明灯、ガードレール、ベンチやフラワーポット、電気などの施設、案内板など様々な設備があります。これらは管理する団体や会社が異なっていますから、別々の色であっても不思議はありません。しかし現在は、これらの色も統一感やバランスを考えていこうという動きが強まっています。地元それぞれにふさわしい色にしていこうという考え方もあります。多方面からきちんと検討された色となってきていますが、さりげないので見落としてしまいがちです。身の回りをちょっと見直してみて下さい。

5.商店の色・看板の色

オーナメントや看板の色も重要です。東京でも特徴的なまち、上野駅近くのアメヤ横丁の色とお隣の御徒町のジュエリータウンをワークショップでまとめた事例の一部を紹介しましょう。
アメヤ横丁とよばれる通りで食品販売店が多い箇所は黄色が明るさと賑わいを醸し出していることが分かりました。それに比べると、飲食店が多い一角は赤や橙系が主流になっているのが特徴的でした。「アメ横」と聞くと何となくワクワクします。年末の大賑わいの光景が有名ですから当然でしょうが、こんな看板やテントの色も一役買っていると言っていいのではないでしょうか。

それに比べると、お隣りである御徒町の一角にジュエリータウンとよばれるところがあります。通りの一本一本にダイヤモンド通りやサファイヤ通りなどという呼称がついており、宝飾関連の専門店が並ぶまちです。こちらにも赤や黄色の目をひく看板はもちろんありますが、少し違う傾向のお店も見かけます。シックな黒やグレー系、落ち着いたブラウン系、シルバーやゴールドの文字、宝石や貴石の色を思い起こさせるターコイズ系など上品さや高級感、風格、ファッション性などを感じさせる色づかいと店構えです、

どのようなお店があるのか、どんな人が集まるのかこの商店や看板の色を見ると分かります。逆に、人々は看板の色に期待して集まってきます。看板の色ひとつとってもおろそかにできません。

自分たちのまちの魅力を「色」という視点から見直して、どんなまちにしていくのか、皆で考えてみるのは、まちの活力を高めるのに有効な活動の一つです。単なる「自分の家の壁」の色、「昔からこの色の看板だった」ではなくて、まちのイメージを担っていると考えていただくと良いのではないでしょうか。

2016年02月29日

Text by 日本カラーデザイン研究所

Photo by 杉山 朗子