統合レポート2025 トップメッセージ
2025年6月27日 公開
本ページはAIを用いて翻訳しています。

髙島 悟
「感性に響く価値」を世界に広げます。
2024年度、当社グループは“GROWTH”を掲げた経営計画artience2027/2030 の1年目を終了しました。世界情勢は依然として不透明で、世界経済の不安定化や地政学的な対立激化など、先行きが見通せない状況が続いています。
しかし、このような経営環境下にあっても、売上高・営業利益・経常利益はいずれも過去最高を達成しました。国内外のグループ社員が一丸となり努力を重ねてきた結果であり、一定の手応えを感じています。ただ、これはあくまで通過点にすぎず、私たちの目指す姿である「企業価値の最大化」に向けては、まだ道半ばです。ROEやPBRといった重要な指標が目標に達していない以上、現状に満足はしていません。むしろ、ようやく変革の兆しが現れてきた段階であって、ここからが本当の勝負だと思っています。
新社名に込めた存在意義と企業の役割
私たちは2024年1月に社名を変更しており、その年は新たにartienceグループとして歩み出した最初の年でした。この社名変更には、大きく二つの理由がありました。一つは、長年業績が伸び悩み、株価も上昇しなかったことへの強い危機感です。「このままではいけない」という想いが、企業変革への決意となり、その象徴的な一歩として社名の変更に至りました。もう一つは、「自分たちの製品・サービスが本当に社会の役に立っているのか」という原点に立ち戻るためです。事業ポートフォリオを抜本的に見直し、より価値ある製品・サービスの提供に軸足を移すことへの意志を新社名に込めました。
同時に、理念体系も刷新し、新たなBrand Promiseとして「感性に響く価値を創りだし、心豊かな未来に挑む」を掲げました。これは新社名の由来である「art」と「science」の融合を反映したものです。永年培ってきた技術力・機能性・品質という「science」と、人の感性や心に寄り添う「art」を掛け合わせることで、今までにない価値創造を目指す姿勢を示しました。
先日、インドのグループ会社の拠点を訪ねた際、この理念の拡がりを実感する印象的な出来事がありました。現地のスタッフとともに顧客訪問を行ったのですが、彼らが自分の言葉で新社名の由来や私たちのパーパスを語り、それを製品提案につなげている姿に深く感動しました。
実は私自身インドとは深い縁があり、現在当社の工場が建っているその土地を、かつて経営企画部部長として自ら足を運んで取得に奔走したという経緯があります。正直ビジネスを行うのに簡単な国ではなく、交渉や契約の過程では多くの困難がありました。ただそのとき、国や文化は違っても互いを理解して尊重し合う関係を築くことの重要性を実感し学びました。
私は、企業の役割の一つに「平和をつくること」があると考えます。まさに渋沢栄一翁が『論語と算盤』で述べているように『彼我経済上の親善は、やがて政治上の親善となって国際間の平和が保護される』のであり、それを実践する姿勢が経営者に求められているのです。
強みを伸ばして成長を目指す中期経営計画artience2027
中期経営計画artience2027では、成長を目指した事業ポートフォリオの変革において、「高収益既存事業群への変革」と「戦略的重点事業群の創出」の2つの方針を柱に挙げています。
まず1つ目は、既存事業のなかでも将来性のある「伸びる事業」に集中的に資本投入し、強化していく取り組みです。これは予想を上回る成果を出しており、営業利益目標を当初の90億円から120億円へ上方修正しました。2024年度の時点ですでに105億円に到達しており、残る2年で達成は十分可能と考えています。
UV硬化型インキの国内外での拡大も収益に寄与しました。当社はインキの原材料から製造しているため、品質面でもコスト面でも競争力のある製品をお客様に提供できます。ベルギーのグループ会社との連携により、欧州はじめ世界の環境規制に迅速に対応できることも強みの一つです。
また、グローバル市場の成長取り込みに引き続き注力しており、特に東南アジアやインドでのシェア拡大が進んでいます。過去にポリマー・塗加工やパッケージなどの事業に対し、コロナ禍にあっても投資の手を緩めなかったことが、いま非常に良い形で実を結んでいます。
2つ目の戦略的重点事業群には、「モビリティ・バッテリー」と「ディスプレイ・先端エレクトロニクス」を位置付けています。前者では、主力となるリチウムイオン電池(LiB)用のCNT(カーボンナノチューブ)分散体が、EV市場の一時的な低迷を受け、やむを得ず投資タイミングを先送りしました。それでも、世界のEV化の流れは不可逆であり、必ず再加速すると考えています。走行距離・充電時間・価格など、現在EVが抱える課題は技術革新によって克服されていくものであり、当社としてはそれを支える製品・技術開発を着実に進めていきます。
後者では、半導体領域において、これまで種を蒔いてきた取り組みがようやく芽を出し始めています。AIの進化が社会構造を変えつつあるなか、需要の急増が見込まれる半導体関連材料や工程材料などが大きなチャンスとなっています。2026年度には50億円の利益目標を掲げていますが、これはむしろ最低限のラインであり、将来的にはより大きな成長を見込んでいます。
artience2027のさらに先に向けて、次世代事業として注目しているのが「バイオ」の分野です。例えば、細胞培養時に使用される蛍光プローブやポリマー材料など、医薬品や検査薬の周辺領域において、当社の素材技術が貢献できる場は広がっています。現在は米国のバイオベンチャー「VLPセラピューティクス」にも出資し、ワクチン開発などをサポートしつつ、バイオ事業の知見を深めています。
経営基盤変革の領域でも成長戦略としてAIの活用を掲げています。昨年立ち上げた「生成AI活用推進タスクフォース」は、2030年に向けて生成AI、特にテキスト対話形式のLLM(大規模言語モデル)をツールの一つとして、全社的なデジタル活用の風土をさらに進化させようとするものです。社内の関心も高く、「AIに挑戦したい」と話す若手の声を直接聞くことも多くなりました。隠れた意欲を引き出していく仕組みの大切さを感じます。
「信用」と「期待」に応え企業価値を向上させる
企業価値向上を私たちの最大のミッションとしたとき、企業価値とは「信用」と「期待」の掛け合わせだと考えています。「信用」とは、不正を起こさず、適切な体制でリスクを管理し続けること。「期待」とは、その企業が将来的にどれだけのキャッシュフローを生み出すかという市場の予測です。これらがそろうことで企業価値は高まり、それが株価にも反映されていきます。
「信用」については、当社は129年続いた歴史により一定の実績を築いてきましたが、それに甘えることなく、さらなる仕組みの強化が欠かせません。ガバナンス改革を継続的に進めており、この1年でもさまざまな前進がありました。取締役会の実効性評価は、自社内だけでなく外部機関にも依頼しており、「議論の内容・質が前年より大きく向上した」という評価をいただいています。取締役会の構成も、独立性を強化するため、外部から経営経験者およびCFO経験者を新たに迎えました。
社外取締役からは折に触れて、より深く関与し貢献したいという声をいただいており、2025年4月からは私や他の経営陣との個別面談の機会を増やしています。時には厳しい指摘をいただきますが、社外取締役が「成長を止める存在」ではなく「適切なリスクを取ることを支援する存在」であると明言してくれることを心強く感じています。
次世代経営人材の育成も重要なテーマであり、指名・報酬に関する諮問委員会の開催頻度を年4回に増やし、議論を活発化させてきました。また、役員報酬についてもROEやEBITDAを評価軸に加える方向で見直しています。従来のように売上や営業利益だけでなく、企業価値により直接的につながる指標を重視していく方針です。
「期待」については、PBRが依然として1倍を下回っている現状を、経営者として重要な課題と認識しています。この状況を打開するため、2025年度には資本構成の最適化を目的とした「バランスシート改革タスクフォース」を立ち上げました。グループ財務部長をはじめとするメンバーとともに、議論を深めています。
業績管理においては、すでにCCCやROICといった資本効率に直結する指標を導入し、キャッシュフロー経営への転換を図っており、一定の改善も見えてきました。
投資判断のプロセスについても強化を進めています。これまでのグループ経営会議や取締役会、その前段階で審議を行う「投融資マネジメント委員会」に加え、全体的な資源配分を検討する「投資方針タスクフォース」を設置しました。個別の投資が成長戦略に本当に合致しているのか、将来的にどれだけのリターンを見込むのかという視点から、より質の高い意思決定ができる体制を築いていきます。
個があってこその全体 ― チャレンジできる仕組みで社員一人ひとりの力を最大化
人的資本への当社の基本的な考え方は「人間尊重の経営」に尽きます。社名変更を機にすべてを変えるつもりで変革に臨んできましたが、この経営哲学だけは一貫して守り続けています。個があってこそ全体がある。一人ひとりの価値と力の最大化こそが、結果として企業全体のパフォーマンス向上につながると信じています。
これを具体化していく新たな人事制度もスタートしました。社員が自身の希望部署に異動できる「キャリアチャレンジ制度」、新たな挑戦とその成果を適正に評価し、報酬に反映する「プラストライ」など、自律的なキャリア形成とチャレンジを後押しする仕組みを整備しています。さらに、海外売上高比率がすでに5割以上となるなか、海外現地のナショナルスタッフのプロファイル把握と育成、流動化を促す異動プログラムについても検討を進めています。
人材の獲得では、時代の変化に応じた柔軟で多様なアプローチが不可欠です。インド、韓国、台湾、中国、日本など、世界各地でキャリア採用を積極化しているほか、一度退職した社員の復職を歓迎する「ジョブリターン制」も導入し、昨年は6名が当社に戻ってきました。
人材育成と新事業創出のために2024年度に立ち上げたインキュベーションセンターも重要な取り組みの一つです。「人と情報が世界中から集まる企業になる」という想いのもと、国内外のスタートアップ、特に当社が重視する環境やディープテック領域の企業に発信の場を提供しています。当社の社員はもちろん、業界他社や自治体など多様な人びとが立場を超えて交流し、新たなアイデアが生まれる場となっています。
このインキュベーションセンターを軸とした「ビジネスアイディアコンテスト」も継続的に開催しています。今年は「IPPO(『まずは勇気を持って一歩踏み出そう』のスローガンに由来)」と名称を新たにし、外部コンサルタントとの連携のもと、すでに20件を超える提案が進行中です。省エネルギーや緑地化に関するプロジェクトなど、事業化が視野に入るテーマも現れ始めています。提案者の熱意に共感した社員が手を挙げてチームをつくり、「個の夢を全体で応援する」という理想が形になりつつあります。
これこそがartienceの真髄です。技術だけでは人の心を動かせないし、想いだけではビジネスにならない。その両方があってこそ、社会に必要とされる価値が生まれる。それが少しずつ体現されてきたことを、いま実感しています。
「art」と「science」の融合により新たな価値創造へ

GHG(温室効果ガス)排出量削減では、2050年のカーボンニュートラル実現を見据え、中間目標として2030年度までにグローバルでのScope1+2を2020年度比で26%削減する計画です。製品面では、サステナビリティ貢献製品の売上高比率を2030年度には80%、2050年度には100%とすることを目指しています。現在注力しているVOC(揮発性有機化合物)を使用しないLED-UV硬化型インキへの切り替えや、脱プラスチックのための機能性コーティング剤などはその一例です。
近年、反SDGs・反ESGといった動きも一部で見られますが、こうした動きは一時的なものに過ぎないと捉えています。環境に配慮しない製品は、やがて市場から排除されていくでしょう。世界の潮流は明確であり、逆行することはありません。私たちはこうした変化に先んじた取り組みで、お客様や消費者の期待を超えていきます。
企業が社会に果たすべき役割は、私は大きく二つあると考えています。すなわち「課題解決」と「価値創造」です。「課題解決」とは、気候変動や人権といった社会が直面するテーマに対して、企業として責任を持って取り組むこと。たとえ一社の取り組みは小さくとも、企業同士が連携すれば大きな力になり、社会を変えていくことができるはずです。
一方の「価値創造」は、これからの社会において一層重要になってくると考えています。AIをはじめとするテクノロジーの進化が加速するなか、社会の常識や人びとのニーズは大きく変わろうとしています。かつてない変化のなかで、私たちは従来とは異なるまったく新しい価値を提供していくことが求められています。だからこそ、個の感性や創造性が非常に大きな意義を持ちます。「art」と「science」の融合を目指す当社の姿勢も、それを映したものです。人の心に寄り添い、技術を高め、新しい価値を創る―そうしたモノづくりを通じて、社会に必要とされ続ける存在でありたいと願っています。