ビジネス編#03 プロダクトのカラー 最適なカラー・バリエーションの展開のために

市場における製品色

ファッション、プロダクト、インテリアといった様々な分野で日々新しい製品が生み出されています。製品によってはひとつのデザインにひとつのカラーリングだけを施したものもありますが、多くの場合は同一のデザインで複数のカラーを展開しています。

Figure1.様々な分野のカラーアソート例※各社HPより抜粋
Figure1.様々な分野のカラーアソート例※各社HPより抜粋

いずれの分野でも製品をデザインするためには多くの時間と費用がかかります。それに比べると素材の染色や外観への着色で済むカラーリングは比較的ローコストで済みます。そして、複数のカラーを用意することでユーザーの幅広い嗜好性に合せることができ、販売量が拡大できるという利点があるのです。また、店頭などで多色展開された製品群を展示することで注目されやすくなったり、製品ブランドのイメージを伝えやすくなるというメリットもあるのです。このような色揃えのことをカラー・バリエーションとかカラー・アソートと呼びます。その際、目的にそったカラー・アソートが組まれているか、ユーザーの好みが反映されているか、が重要なポイントとなります。

製品色展開の事例(スマートフォン)

カラーを整理して全体像を把握するためにカラーシステムがあります(#2カラーシステムを参照)。ここでは2013年1月時点で日本の市場に展開されていたスマートフォン・携帯電話の製品色(計112機種361色)を日本カラーデザイン研究所のHUE&TONEカラーシステムで分析したものを示します。

スマートフォン・携帯電話のHUE&TONEの画像の件
スマートフォン・携帯電話のHUE&TONE(比率)

各カラーの構成比率をみると、有彩色が53.7%、無彩色が46.3%となりほぼ半々であることがわかります。色相ではRP系(赤紫系)が圧倒的に多く、トーンでは鮮やかなトーン(V=ヴィヴィッドトーン、S=ストロングトーン)や明るいトーン(B=ブライトトーン)が多くなっています。

1機種あたりのカラーバリエーション数

また、 1機種当たりのカラー・バリエーション数を調べると、最頻値は3色で、8色展開以下だけを平均すると2.9色となります。なお、HUE&TONE表で色別出現数の多い順に並べると、ホワイト、ブラック、ビビッドピンクとなりますが、実際この組合せの3色展開が最も多い組合せとなっていました。これは製品ブランド間で色による差別性の効果が高くないことを示しています。

ユーザーの嗜好性

同時期に10代後半から60代までの男女1440名に、使ってみたいスマートフォン・携帯電話の色を48色のカラーチップを提示して複数選択してもらう調査をおこないました。その結果、ユーザーの使用意向としては有彩色が66.7%、無彩色が33.3%という構成比率となり、先ほどの市場における製品色に比べ、より有彩色を求めていることがわかったのです。

ユーザーの仕様意向色

市場における製品色とユーザーの使用意向色を色相別、トーン別にみると、製品色は色相RP(赤紫)に偏っているのに対して、ユーザーの使用意向はPB系(青紫)やR系(赤)の割合が高く、トーンではより暗いトーンを求めていることもわかります。

色相比率の比較 トーン比率での比較

カラー・バリエーション

カラー・バリエーションには基本的に2つのタイプがあります。ひとつは、できるだけ多くのユーザーの嗜好性をカバーするための色揃えであり、もうひとつは製品ブランドイメージを的確に表現するための色揃えです。先程のホワイト、ブラック、ビビッドピンクの3色展開は前者の例といえます。ただし、この場合の欠点は競合ブランドと同じような製品色展開となりやすく、差別性に欠けてしまうことです。それに対して後者の色揃えはメーカーからの発信性が強くなり、差別性も増します。ただし、コンセプト・イメージが限定されるためにユーザー層も絞り込むことになってしまいます。いずれの場合でも市場全体でユーザーの満足度を上げることは重要です。そのための手法として、ユーザーの嗜好性を類型化し、それを元に製品色展開を計画することが有効だと考えています。

ユーザーのカラー・デザインの嗜好性の類型化

さて、メーカーとしては展開する全ての製品色を、ユーザーの嗜好性を基準にして決めているわけではありません。しかし、ユーザーとしては好みに合うカラーを求めます。その際、もし最も欲しいカラーが市場になかった場合、それに代わる色で好みにあったものを選択することになります。ひとそれぞれの色の好みにはある"方向性"があります。その嗜好の"方向性"が類似した人同士をグルーピングして、何タイプかに分けることができます。つまり10人10色ではなく、似た好みの人同士、数タイプに分類するわけです。統計解析による手法で12タイプに分類した結果を図に示します。図を見ると①から⑫までのタイプが、それぞれ色味やトーンの違いにより、異なる好みの"方向性を持っていることがわかるでしょう。

12タイプのカラー嗜好クラスター

たとえば、①、③、⑪のタイプはいずれもブラックを好んでいます。しかし、①タイプは穏やかな無彩色のひとつとしてブラックを好み、③タイプは華やかなイメージのビビッドな暖色やゴールドとともに好み、⑪タイプは重厚感のある暗いトーンのカラーのひとつとして好んでいるのです。このようにユーザーによって異なる色の意味を複数の嗜好色から把握することができます。
市場において、ユーザーの満足度を上げ、かつ、少ない色数のカラー展開で販売量を増やすためには、ユーザーの嗜好性を類型化して把握し、それに製品のブランド性を掛け合わせることで可能になります。これがカラー・バリエーションの最適化手法です。

2015年05月20日

Text by 日本カラーデザイン研究所