中期経営計画artience2027|統合レポート2026 財務戦略:確かな財務規律のもと資本効率向上と成長投資を加速
2026年6月30日 公開
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事業ポートフォリオマネジメントの進捗

有村 健志
2025年度は、環境が激しく変化するなかでGROWTH(成長)実現に向けた基盤の再構築に取り組んだ一年でした。EV市場の減速を受け、CNT分散体事業で減損損失を計上することとなり、数字のうえで大きな影響を受けました。営業利益は過去最高を更新したものの、この特殊要因により当期純利益は減益となり、ROEは3.9%に留まりました。一方で、こうした影響を除けば収益力は着実に高まっており、2026年度はさらなる業績の伸長を見込んでいます。
特に中期経営計画artience2027で目標に掲げるROE8%は、経営としてコミットしている重要指標です。営業利益の拡大を軸とした事業ポートフォリオの変革と、政策保有株式の計画的な売却や、株主還元強化などの資本政策を組み合わせ、着実に取り組んでいきたいと考えています。
また現在、PBRが1倍を下回っている背景には、ROEが実力ベースで目標水準に達していないことに加え、将来の成長期待が十分に織り込まれていない点があると認識しています。IR活動を通じて当社の戦略や進捗を丁寧に発信し、期待値の向上につなげていくことが欠かせません。投資家のみなさまからいただいた多様なご意見を、具体的な施策や経営計画へと反映していきます。
マクロ環境に目を向ければ、デフレからインフレへの移行という大きな転換期にあります。事業面では価格転嫁を進めやすくなった反面、将来的な金利上昇は避けられません。そのため2025年度は有利子負債の削減を進め、財務体質の強化に取り組みました。
資本効率については、全社ではROIC(投下資本利益率)で管理する一方、現場ではCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を主指標として運用しています。部門間でばらつきはあるものの、国内を中心に在庫削減は進展しており、現場の意識は確実に変化しています。上からの指示を待たずとも現場が自律的に改善行動を取ることは、当社グループにとって今後の確かな強みになると確信しています。
- ROEは、2025年に減損損失計上の影響を受け一時的に低下。
- 2026年は、収益改善を背景に8.0%超の達成を目指し、株主資本コスト(約8%)を上回る水準の実現を通じて、PBR向上を図る。
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事業ポートフォリオ変革 |
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資本効率の向上 |
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資本政策 |
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資本コスト低減の取り組み |
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- 450万株もしくは100憶円上限(取得期間2025年5月12日~2026年5月11日)
PBR推移および業績推移・目標

投資方針を見直し、キャッシュアロケーションを最適化
2025年度には、全社的な取り組みとして「投資方針検討タスクフォース」と「BS改革タスクフォース」を立ち上げ、議論を重ねてきました。特に投資方針検討タスクフォースでは、どこに投資し成長を加速させるのかという視点と、財務規律・投資規律をいかに維持するかという視点の両立をテーマに、具体的な方針の整理と提案を進めてきました。
従来の投資判断は、おおむね減価償却費の範囲内を目安として実行してきました。その結果、成長投資が優先される一方で、維持更新のための投資が抑制されやすく、国内拠点では老朽化した建屋や設備を長期間使用せざるを得ないような状況もありました。
こうした状況を踏まえ、投資方針を見直しました。まず、成長投資については従来の減価償却費の枠にとらわれず、必要なものは別枠で機動的に実行していく体制へと転換。また、今後の労働人口減少を見据え、省人化・省力化・労働環境改善のための設備投資にもしっかりと資源を配分していきます。重視するのは、すべての事業への一律の投資ではなく、投資の優先順位を明確にしていくことです。一定水準以上のROICを確保しつつ、「成長事業」または「収益基盤事業」と位置付けた領域に対して、競争力強化につながる投資を集中させていきます。
具体的なキャッシュアロケーションにおいては、市場環境の変化を踏まえ、CNT分散体事業で予定していた投資の一部を見送る判断を下しました。その分の資金を、他領域の成長投資および維持・効率化投資へと再配分しています。成長投資については、次期中期経営計画artience2030での実施を想定していた領域でも、事業の進捗から「今が適切なタイミング」と判断したものは前倒しで実行する方針です。今期はインドでのリキッドインキ事業や中国での粘着剤事業における増産体制強化を加速させています。
維持・効率化投資としては、埼玉製造所におけるリキッドインキ事業への投資を決定しました。同事業は、製販一体となった品種統合などコストダウンによる高収益化が進んでおり、自動化や設備の更新によって人手不足への対応とさらなる効率化を図っていきます。
株主還元については、artience2027で掲げた総還元性向50%以上をすでに達成しています。3年間で400億円を見込んだ株主還元総額のうち、350億円強については実施を決定しており、2026年度の増配も公表済みです。残余の還元についても、適切な方法を検討していきます。
中期経営計画3年間の資本政策およびキャッシュアロケーションの進捗(単位:億円)

株主還元

投資判断の確度を高め、説明責任を果たす
経営計画artience2027/2030 “GROWTH”の実現に向けて、最大の鍵となるのは利益率の向上です。個々の事業における改善はもちろん重要ですが、より大きな視点から、資本効率や利益率の高い事業へとポートフォリオを大胆に転換していくことが求められています。当社が持つ安定した財務基盤をいかに活かし、企業価値の向上へとつなげていくか、その本質が問われていると考えます。また、現在の円安や金利上昇局面においては、財務格付けの「A格」維持が重要です。これは資金調達コストに直結するものであり、今後もこの方針を堅持していきます。
成長のための積極投資は不可欠ですが、財務部門としては「投資の規律」を問う視点も欠かせません。2025年度には大きな減損損失を計上したことも踏まえ、投資判断における前提の検証を一層強化し、実行後も適宜見直しを図っていきます。ただし、これは過度に保守的になることを意味するものではありません。投資の妥当性を冷静に見極めたうえで、本当に価値ある投資を後押しし、見合わないものについてはブレーキをかける。その峻別こそが財務担当役員としての役割だと考えます。
私が意思決定において常に軸とするのは、「それが説明可能かどうか」です。すべての施策や提案について、社内外に対して妥当性を説明できるか、「なぜこの判断に至ったのか」を常識的な筋道で語れるかを問い続けています。異なる意見があったとしても、対話を通して理解を得られるような財務戦略を追求し、真の意味での説明責任を果たしていきます。